八ッ場ダム・堤体完成後の調査見学
2019年5月29日に,堤体のコンクリート打ちが完了した八ッ場ダム(写真-1&2)を,国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所の案内で見学しました.危険学プロジェクトとしては,2010年8月に堤体建設工事が中断されている時に見学して以来,4度目になります.
我が国では,戦後間もない時期に大災害が続発し,関東では1947年9月に襲来したカスリーン台風と停滞前線による大雨で利根川を含む大小の河川が決壊・氾濫して2千人近い犠牲者が出ました.八ッ場ダムは,これら一連の大災害を受けて1949年に策定された「河川改訂改修計画」により建設されることになった利根川水系8ダムのうちの1つです.
湛水に至るまでにはまだ多くの確認作業や仕上工事が必要だそうですが,72年前のカスリーン台風の悪夢が再来しないように,一日も早い完成が望まれます.
というのも,温帯地域にあって,4つものプレート(ユーラシア,北米,太平洋,フィリピン海プレート)が会合する日本列島は,四季に恵まれ,美しい山々や海岸風景が楽しめる一方,緯度,地形やプレート運動等の影響を受け,地震,津波,噴火,風水害,土砂災害など災害が多い国でもあります.そのような国土に手を加えながら,我々日本人は2千年近くにわたって営々と土地利用を進めてきました.
ところが,「災害脆弱性」という観点に立ってみると,従来から指摘されている都市への過度の集中や地方の過疎化,高齢化の問題がさらに進んでいる上に,近年はインフラの老朽化,気候変動による極端現象までが加わり,大災害が続発した終戦直後の頃と似たような「心配な状況」にあります.
2018年がまさにそれで,テレビ,新聞等で大きく報道された災害だけでも以下のようになります.
- 1月下旬から2月初めの北陸から関東の豪雪
- 1月23日の草津白根山の水蒸気噴火
- 4月11日の大分県耶馬渓の突然の山腹崩壊
- 6月17日の大正12年以来の群馬県地震,翌18日の震度6弱の大阪北部地震
- 7月5日から8日にかけて広島,岡山,愛媛の3県を襲った西日本豪雨
- 9月4日の台風21号による近畿地方の風水害
- 9月6日の北海道胆振東地震
八ッ場ダムの堤頂から下流を見回すと,真っ先に美しい吾妻川の渓流が目に入ってきました(写真-3).治水・利水・発電等のダム機能と景観保持の両方を託されたのが八ッ場ダムで,同工事事務所主催でダム工事現場が見られる一般客向けのツアー参加者数が50万人を超えたそうです.“美しくも荒々しい自然”との共存は日本人にとって永遠のテーマで,ツアーの盛況はそのことを図らずも示している事象の一つかも知れません.
「自然との共存」は「危険学」にとっても最重要テーマの一つで,そのことを改めて考えさせられた見学会でした.
写真-1 八ツ場大橋(上流側)から見た堤体
写真-2 堤体に向かう一行
写真-3 堤頂から見た工事中の下流側ダム設備と吾妻川渓流
【八ッ場ダム】
- 所在地:群馬県吾妻郡長野原町
- 型式:重力式コンクリートダム
- 堤高・堤頂長:116m,290.8m
- 総貯水量:1億750万m3
*写真撮影日:2019年5月29日